カテゴリ:快楽読書小倶楽部( 38 )

憐れみはあとで

D.E.ウェストレイク/早川ミステリ文庫

高村薫さんの『マークスの山』を読んだとき、ふと思い出して再読したくなって、
物置を探しまくってしまった。

1964年発表の、今でいうところのサイコ物。
初めて読んだとき、すごく新鮮さを感じて、何度となく読み返した覚えがある。
今になって再読してみると、この時代にすでにこの手の作品が描かれていたことが、
驚きかもしれない。
アメリカでは解離性同一性障害(多重人格者)という症例がすでに認知されてはいたが、
理解にはいたっていない、という状況で書かれたのが本書らしい。
時代を先取りしすぎたためか、今のサイコ物と比べると少し物足りないが、切り口は鋭い。

まるで水を得た魚のように、生き生きと他人を演じる犯人が、深奥に抱える罪の意識。
「殺したくないのに」と、彼の本能は助けを求めている。
犯人のそんなメッセージを感じながらも、誰も彼を救えない。
連続殺人犯という言葉が持つイメージとは、何かそぐわない孤独な魂が哀しい。

作者D.E.ウェストレイクは、
ドナルド・E・ウェストレイク(映画『ビッグ・マネー』『グリフターズ/詐欺師たち』などの原作)、
『悪党パーカー・シリーズ』のリチャード・スターク、
『刑事くずれシリーズ』のタッカー・コウなどの別名義で多くの作品がある。


*ここの本の感想は一口メモ程度。
詳しい書評は【快楽読書倶楽部】へどうぞY
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by sumika_meimu | 2006-02-27 23:02 | 快楽読書小倶楽部

哀愁のハードボイルド―サム・リーヴズ

HPでは、今まで何冊かまとめてレビューしていたのだけど、
それだと更新スピードが遅くなってしまうことに気づいて(今頃?)、
最近は少しずつ(1冊ずつ)でもUPするようにしています。
「おおっ進歩だ!」と自画自賛(うふっ)。


「長く冷たい秋」「雨のやまない夜」「春までの深い闇」「過ぎゆく夏の別れ」
サム・リーヴズ/ハヤカワ・ミステリ文庫

何年かぶりに再読したので、今回は4作品まとめてのシリーズ評。
ベトナムの帰還兵で、タクシードライバーを主人公とするハードボイルド。

主人公のクーパー・マクリーシュはシカゴのタクシードライバー。
恋人のダイアナには、学歴があるのだからリスクの多い運転手などやめて、と言われつつ、
人間関係人がうまく築くことができない彼は運転手にこだわる。
血の気は多いが、人生の途中で立ちすくんでしまった、悲哀を滲ませた中年男は、
ハードボイルドでは定番のキャラクターだが、
その性格設定や清新な印象を残す、独特の雰囲気がいい。
事件に巻き込まれ、身も心も傷つきながらも解決していく様子が一作毎に展開していく。

クーパーはベトナムで嫌というほど死を間近に見たせいで、生き方は屈折している。
自虐的な一面を抱えながらも、彼の人間的な優しさが魅力的だ。
女性をターゲットにしたようなシリーズタイトルで、私も乗せられて買った口だけど、
でも、彼の優しさは、当事者(特に恋人)には伝わりにくい優しさなんじゃないかな。
男が示す優しさと、女が求める優しさには、ギャップがあるということね。

推理部分の展開はちょっと甘さを感じるが、心情的な語り口と叙情的描写、
じっくりと書き込まれた人間関係などで、味わい深い作品になっている。
父と子との物語でもあり、心に傷を持つ人間同士の絆を描いた作品としてもお薦め。



*ここの本の感想は一口メモ程度。
詳しい書評は【快楽読書倶楽部】>【快楽読書倶楽部】へどうぞ。
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by sumika_meimu | 2006-02-22 19:14 | 快楽読書小倶楽部

標的は11人-モサド暗殺チームの記録

ジョージ・ジョナス/新潮文庫

今回は私のウィークポイント、ってーか…中東絡みなのでちっとばかりマジ。

当事者の告白をもとに、ジャーナリストの著者によって構成された息詰まるドキュメント作品。
スピルバーグ監督の映画「ミュンヘン」の参考図書にされている(原作ではないので念のため)。

ミュンヘンオリンピック開催中の1972年9月、PLO(パレスチナ暫定自治政府)の過激派
「黒い九月(Black September)」に所属するテロリスト8人によって、イスラエルの選手と
役員11名が殺害された。
イスラエルのゴルダ・メイア首相は、モサドのエージェントであるアフナーに、ミュンヘン事件の
首謀者および関与したテロリスト11名の暗殺の極秘指令をだす。アフナーをチームリーダー
として、武器、爆薬、移動手段、文書偽造のスペシャリストからなる5名の暗殺チームが編成
される。

トップの地位にいるテロリストを殺害することで、グループの気勢を殺ぐことができれば、
次のテロ活動を躊躇させることができるかもしれない。
反テロ行為=殺人、を自分の中で正当化しつつ、暗殺チームは西ヨーロッパに潜行し、
標的9名を暗殺。彼らは完璧な任務遂行と自負していた。
だが、3年近く強いられた緊張や心労、そして依然としてテロが繰り返されている現実に、
彼らは任務の意義を見失っていく。
さらに他のチームの失敗により、自分たちもPLO側に暗殺されるかもしれないという恐怖に
怯えるようになる。事実、アフナーのチームの存在も敵方に知られ、3人の仲間を喪って
しまう。

作戦終了の通知を受けて自国に戻ると、意外なことにアフナーは英雄として扱われる。
次の任務も用意されていたが、アフナーはニューヨークで妻子との平穏な生活を求めて、
モサドからの辞任を求める。
だが、モサドの工作管理官は、アフナーの銀行口座の3年間の報酬を凍結し、
執拗に復帰を促がす。

本書を通じて明らかにされるのは、途切れることのないテロとその報復の繰り返しの構図だ。
自爆攻撃による犠牲者の何倍もの市民を殺しても、イスラエルはテロ国家と呼ばれない。
ほんの少しでも占領地を返せば、国際社会は「英断」と評価する。この不公平感はなんだろう。
「人口増で入植地がもっと必要」という主張にどれだけ説得があるのか。
それでもテロ組織が悪いのか。

けっしてテロルを支持はしないが、「占領が終われば闘争も終わる」という因果関係は
はっきりしている。つまり、暗殺チームの非合法な暴力工作は、テロルと同根なのだ。
水面下で繰り広げられる秘密情報工作や組織の冷酷な側面をも描き、薄ら寒くなってくる。

報酬を取り上げられ無一文になったアフナーだが、現在は名前を変えて、妻子とともに
合衆国に住んでいるのだそうだ。
巻末の「取材ノート」ではアフナーの告白の真偽を調査、検証している。
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by sumika_meimu | 2006-02-19 21:18 | 快楽読書小倶楽部

リヴィエラを撃て(上・下)

高村薫/新潮文庫

1993年度の日本推理作家協会賞、並びに日本冒険小説協会大賞を受賞した作品。
冷戦時代の国際政治の裏側を暗躍する西側諸国の諜報活動を舞台にしたミステリ。

国際国家、組織などのいろいろな思惑が交錯する。
それらに翻弄される人間の愚かさ、無力さ、哀しさ。多くの血が流れる。
綿密な設定のなかに垣間見える圧倒的な精緻さ、複雑な社会背景と人間関係が、
緻密な文章で組み立てられていく。

どうしようもない現実に翻弄され、恋人の面影を追いながらも、
暗闇に生きるしかなかったジャック。
そして、ジャックを中心に展開する人々の、魂が呼び合うかのような
濃密な男たちの関係は繊細でドラマチックだ。

運命に翻弄されたジャックとノーマン・シンクレアの関係が、もどかしく、
そして息苦しいほど切ない。
作中で繰り返し登場する「ブラームスのピアノ協奏曲第2番」のメロディとともに、
ビショップスゲートの露天商でジャックの叫び、「ノーマン!」がいつまでも胸に残響する。
胸の底にどっしりと重く冷たい余韻が沈み込んでいく。

IRA(アイルランド共和軍)、CIA(米国中央情報局).、MI5(SIS/英国情報局保安部)、
MI6(セキュリティ・サービス/英国情報局秘密情報部)といった、
ややっこしい名称がぞろぞろ出てくるので、もしかしたら苦手な方もいるかと思うのだけど、
とにかく、ぜひ最後まで読んでほしい。
そうするだけの価値はある作品である。

以下余談
前回の小倶楽部('06/2/2)のブログで書いたように、
高村薫作品では、私には一番読みやすい世界だったにもかかわらず、レビューには苦戦。
一時期、自分がIRA関係の本を乱読していたこともあって、
思い入れが深くなってしまったのかもしれないが、
今回はこの作品を語るための言葉が足りない、と痛感してしまった…あうあう。



*ここの本の感想は一口メモ程度。
詳しい書評は【快楽読書倶楽部】>高村薫へどうぞ。
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by sumika_meimu | 2006-02-16 20:25 | 快楽読書小倶楽部

黒い夏

ジャック ケッチャム/扶桑社ミステリー

ベトナム戦争、シャロン・テート事件が起こった60年代のアメリカの田舎町が舞台。
率直に言って救いのない作品。それなのに最後まで一気に読ませてしまう不思議なパワーがある。

当時少年だったレイが無邪気に少女の頭に銃をブチかますという、
衝撃的なシーンから物語が始まる。
レイの狂気には、生い立ちや成長過程との因果関係や原因は提示されていない。
からっぽの人型の中に災厄だけが詰まっているようなもの、と言ったらいいだろうか。
そんなレイに関わり巻き込まれる人々のそれぞれの視点で描写されていく。
人々は、レイの暴走する狂気の原因を考え、しかし困惑するしかないのだ。

短気で偏執的、女と麻薬のことしか頭になく、プライドばかりが異常に高い――歪なレイの
内面を積み重ねるように、丹念に描写される。
じわりと迫ってくる緊張感と迫力が、ケッチャムが好きな人にはたまらなく癖になるのかもしれない。

でも私自身は苦手なジャンル。
狂気や15禁指定したいような暴力のせいではなく、異様な緊張感がストレスになるから(笑)。


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by sumika_meimu | 2006-02-16 19:21 | 快楽読書小倶楽部

聖骸布血盟

高村薫さんの「リヴィエラを撃て」読了。
この手のスパイ物って大好きなので、もう楽しいったら♪♪
また高村薫病になるのでは…と恐れていたのだけど、
高村作品では、私には一番読みやすい世界。
↑テロリストとか殺し屋とか不穏な輩が…萌え~(笑)。
なにより、翻訳物を続けて読んでいたせいか、紙面が黒いのも気にならないしっ。
久し振りに「あと、これだけで読み終わってしまう…」と、
楽しいような寂しいような気持ちを味わいました。
こちらのレビューは次回に♪


「聖骸布血盟」フリア・ナバロ/ランダムハウス講談社文庫

キリストの聖骸布が保管される、トリノ大聖堂で火災が発生。
焼跡から発見されたのは、“舌のない男”の焼死体だった。
美術品特捜部部長マルコは、二つの事件の関連を疑い捜査に乗りだす。

物語は2つの軸によって構成。
トリノ大聖堂を舞台に起こった現代の事件と、2000年前のイエスの時代に始まる
聖骸布の歴史を交互に描かれていく。
「聖骸布」とはキリストが十字架刑に処せられたあと、
遺骸を包むのに使われた亜麻布のことで、キリストの磔刑の姿を投影しているという。
この聖骸布には奇跡を起こす力があるという伝説があり、中世以降、ヨーロッパ諸国では
聖骸布を占有するための争奪戦が何度となく起こっている。
その過程で登場してくるのが、聖地エルサレムを奪還し、キリスト教国を打ち立てたという、
あの伝説のテンプル騎士団だ。
本書では、テンプル騎士団の謎とされる部分と聖骸布の謎を、
ある程度まで史実と重ね合わせながら、大胆な推理でその謎を解き明かしていく。

過去の彼方から現代に連綿と続く人間の営みと精神の繋がり。
そして、この先も続いていくであろう歴史の壮大な時の流れに思いをはせる。
歴史ミステリの楽しさはここにある。



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by sumika_meimu | 2006-02-02 18:58 | 快楽読書小倶楽部

死の姉妹

グリーンバーグ&ハムリー編/扶桑社ミステリー

女性吸血鬼の作品を集めたアンソロジー。
残忍かつ性的なメタファーとして扱われる吸血鬼であるが、女性吸血鬼ということで、
母性を感じさせる作品が多い。登場する彼女たちは、少女であったり妻であったり、
さらに母であったりと、吸血鬼であると同時に女性として描かれているのが
このアンソロジーの特色となっている。

吸血鬼の親子が、同じように夜型の暮らしを営む人間と共感していくコミカルな
「夜の仲間たち」(デボラ・ウィーラー)、家族の崩壊劇を描いた「ママ」、
アルコール中毒の女性のホームレスが物語る「真夜中の救済者」、
吸血鬼がカミングアウトする近未来のアメリカを描く「犠牲者」は現実的でシビア、
表題ともなっている「死の姉妹」の吸血鬼を高次元の存在として捉えて母性を
全面に出した作品などが印象深い。
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by sumika_meimu | 2006-01-27 23:46 | 快楽読書小倶楽部

石に刻まれた時間

ロバート ゴダード 著/創元推理文庫

ホラータッチのサスペンス。
最愛の妻マリーナを亡くした「ぼく」は、無二の親友マットと彼の妻でマリーナの妹でもある
ルーシーに勧められるままに、二人が住む邸宅アザウェイズに逗留する。
だがその家は見るものの感覚を異様にゆがめる造りの不可思議な建物だった。
さらに、この家に住んだ者はかならず、奇怪で悲惨な事件に見舞われるしいう過去があった。

死せる妻に語りかける形の告白調はなんとも切ない心情が迫ってくる。
不可解な構造を持ったアザウェイズ。
その異様な雰囲気の中で夢と現実の区別がつかなくなってしまう登場人物たち。
さらにアザウェイズを巡る歴史の大きなうねりをも用意されて、ねっとりと絡みつくような
重厚な味わいのサイコ・スリラー、といったらいいだろうか。
奇妙な、眩惑感あふれるストーリー展開となっているのだが、気に入ったのか否か、
実は自分でも判断つきかねているのだった。

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by sumika_meimu | 2006-01-27 23:34 | 快楽読書小倶楽部

クリスマスに少女は還る

キャロル・オコンネル著/創元推理文庫

クリスマスも近いある日、アメリカの田舎町で2人の少女が誘拐される。
地元警察から特別捜査官に抜擢された刑事ルージュは、15年前に双子の妹を誘拐され、
やはりクリスマスに殺されるという過去を持っていた。
だが、犯人は今も刑務所の中にいる。彼は本当に犯人だったのか。
一方、監禁された少女たちは奇妙な地下室に潜み、脱出の時をうかがっていた。
猟奇的な連続殺人犯はいったい誰なのか。そして、少女たちは救出されるのか。

映像的な美しさ、登場人物たちの心理描写、ストーリー進行のスピード感など、
ミステリという要素をしっかりと盛り込んだ作品である。
そして、あまりにも意外な結末。
この結末が賛否両論となり「問題作」とされているらしいのだが、
私自身は物語の必然として納得したし、切なさに泣けてしまった。

変則的な視点の積み重ねによる表現力。
丹念に物語を織り上げていくストーリーテリングもあるが、人物設定とその描写がいい。
特に、誘拐される2人の少女は特筆もの。
自分たちが置かれている状況を冷静に判断する精神力。
ホラーオタク少女サディーの、友を庇い、いたわる力強さ。
「あたしにあんたを置いていけるわけないでしょう?」

自分一人で逃げるのではなく、共に生還しなければ意味がない。
そして、この言葉こそが、物語を衝撃と感動のエピローグへと導いていく。

登場人物が多いせいか、中盤、ストーリーが拡散して少々中だるみを感じるが、
このエピローグのためにこそ、この道程はあったのかと思わせるような、
とても切なく、残酷、そして美しい聖夜の奇跡だ。


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by sumika_meimu | 2006-01-21 23:06 | 快楽読書小倶楽部

痛快なピカレスクロマン

「陽気なギャングが地球を回す」伊坂幸太郎

とても上質なコンゲーム。
人間嘘発見器、スリの達人、演説の名手、正確な体内時計を持つシングルマザーの4人組は、
現在、ロマンある銀行強盗を繰り返しては百発百中の銀行強盗グループである。
「現金輸送車の襲撃にはロマンがない」とのたまう彼らの手口は、
窓口カウンターまで最小限の変装で近づき、
「警報装置を使わせず、金を出させて、逃げる」というシンプルなもの。
綿密な打ち合わせのもとに行なわれた銀行強盗からの逃走中、
4人は思わぬアクシデントに見舞われる。

4人の視点が順番に切り替わりつつ物語が進行していくのだけど、
読む者の手を止めさせない勢いとスピード感がある。
何といっても楽しいのは、綿密な下見に作戦会議、そして実際に実行する銀行強盗。
その最中の演説の名手による薀蓄満載の演説。
呆気に取られている行員や客の顔が目に浮かぶようではないか。
5分きっかりで仕事が終われば、優雅なお辞儀と「ごきげんよう」の挨拶を残し、
スマートに去って行く――なんともお洒落で爽快。

伏線の張り方もさらりと見事で、終盤で次々収束していくさまはいっそ快感。
遊び心満載のエンタテイメント作品である。

*ここの本の感想は一口メモ程度。詳しい感想は[伊坂幸太郎さんのページ]へどうぞ。
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by sumika_meimu | 2006-01-05 19:40 | 快楽読書小倶楽部