神の火

高村薫/改定版:新潮文庫

複雑な国際諜報を描いたスパイ小説。
国際謀略の手駒となるべく育てられた島田浩二は、日本原子力研究所に勤める
技術者である一方、原子力技術に関する機密をソヴィエトの情報機関に流すスパイを
務めてきた。
ようやくそんな生活から足抜けした島田は、平凡な暮らしを手にいれたつもりだった。
だが父の葬式の席で、島田は自分をスパイの世界に引きずり込んだ張本人である
江口彰彦と再会する。
それは島田自身が刻んできた過去からの、逃れようもない呼び声であった。

島田を取り巻く状況が二転三転し、なかなか真実が見えてこない。
諜報合戦や水面下での駆け引きはスリリングで緊迫感がある。
その意味では『リヴィエラを撃て』と構造が似ているが、島田が普通の会社に通う日常と、
スパイとしての非日常のコントラストの描き方が見事だ。

砂上の楼閣のような人間関係の虚しさ。
それでもひとりの人間として生きようとする男たち。
行き場のない苛立ちゆえに、個々の人生を振り回す権力をすべてを承知で、
男たちは、もはや止めようもない熱波のような激情に突き動かされて、
救いのないラストへと疾走していく。

ラスト――見上げた空の雪模様と場の空間の広がりが、
まるで映像のように鮮やかで臨場感がある。

複雑に織り上げられた人間模様に潜む愛憎や、
追い詰められた状況の中でふっと浮かび上がる男たちの絆が、
高村作品らしく、熱っぽさが充満している(笑)。


*ここの本の感想は覚え書き程度。
詳しい書評は【快楽読書倶楽部】>高村薫へどうぞ。
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by sumika_meimu | 2006-03-10 00:44 | 快楽読書小倶楽部
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