標的は11人-モサド暗殺チームの記録

ジョージ・ジョナス/新潮文庫

今回は私のウィークポイント、ってーか…中東絡みなのでちっとばかりマジ。

当事者の告白をもとに、ジャーナリストの著者によって構成された息詰まるドキュメント作品。
スピルバーグ監督の映画「ミュンヘン」の参考図書にされている(原作ではないので念のため)。

ミュンヘンオリンピック開催中の1972年9月、PLO(パレスチナ暫定自治政府)の過激派
「黒い九月(Black September)」に所属するテロリスト8人によって、イスラエルの選手と
役員11名が殺害された。
イスラエルのゴルダ・メイア首相は、モサドのエージェントであるアフナーに、ミュンヘン事件の
首謀者および関与したテロリスト11名の暗殺の極秘指令をだす。アフナーをチームリーダー
として、武器、爆薬、移動手段、文書偽造のスペシャリストからなる5名の暗殺チームが編成
される。

トップの地位にいるテロリストを殺害することで、グループの気勢を殺ぐことができれば、
次のテロ活動を躊躇させることができるかもしれない。
反テロ行為=殺人、を自分の中で正当化しつつ、暗殺チームは西ヨーロッパに潜行し、
標的9名を暗殺。彼らは完璧な任務遂行と自負していた。
だが、3年近く強いられた緊張や心労、そして依然としてテロが繰り返されている現実に、
彼らは任務の意義を見失っていく。
さらに他のチームの失敗により、自分たちもPLO側に暗殺されるかもしれないという恐怖に
怯えるようになる。事実、アフナーのチームの存在も敵方に知られ、3人の仲間を喪って
しまう。

作戦終了の通知を受けて自国に戻ると、意外なことにアフナーは英雄として扱われる。
次の任務も用意されていたが、アフナーはニューヨークで妻子との平穏な生活を求めて、
モサドからの辞任を求める。
だが、モサドの工作管理官は、アフナーの銀行口座の3年間の報酬を凍結し、
執拗に復帰を促がす。

本書を通じて明らかにされるのは、途切れることのないテロとその報復の繰り返しの構図だ。
自爆攻撃による犠牲者の何倍もの市民を殺しても、イスラエルはテロ国家と呼ばれない。
ほんの少しでも占領地を返せば、国際社会は「英断」と評価する。この不公平感はなんだろう。
「人口増で入植地がもっと必要」という主張にどれだけ説得があるのか。
それでもテロ組織が悪いのか。

けっしてテロルを支持はしないが、「占領が終われば闘争も終わる」という因果関係は
はっきりしている。つまり、暗殺チームの非合法な暴力工作は、テロルと同根なのだ。
水面下で繰り広げられる秘密情報工作や組織の冷酷な側面をも描き、薄ら寒くなってくる。

報酬を取り上げられ無一文になったアフナーだが、現在は名前を変えて、妻子とともに
合衆国に住んでいるのだそうだ。
巻末の「取材ノート」ではアフナーの告白の真偽を調査、検証している。
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by sumika_meimu | 2006-02-19 21:18 | 快楽読書小倶楽部
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